「自分で気づけない」

私は、大切な何かを身に付けていなかった。


自分の心と身体に起こっていること。

それらを見つめる目を、それらを自分に知らせる意識を。

世界がぼんやりと歪んで見える膜の中で、ずっと宙をまさぐっていた私の足先。

それがあの時、痛みと共に底にふれた。

私は降り立った暗闇の中で、初めて死に物狂いで膜の外に手を伸ばした。

 

あの時の何かにつながる経験は、私の中に初めて、違う色が違う音が、染み込み広がるようだった。

その時初めて私は私を、外から眺められたように感じることができた。

 

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